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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)99号 判決

原告(反訴被告) 近野光三 外一名

被告(反訴原告) 東京トヨペツト株式会社

主文

一  本訴原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  反訴被告両名は各自反訴原告に対し金三〇万円の支払をせよ。

三  反訴原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて、本訴原告両名(反訴被告両名)の負担とする。

事実

第一申立

本訴原告両名(反訴被告両名、以下単に原告又は原告両名という)は、本訴について、

一  別紙物件目録〈省略〉一の(一)記載の宅地および別紙物件目録二の(一)(二)記載の建物が原告近野の、別紙物件目録一の(二)記載の宅地および別紙物件目録二の(三)記載の建物が原告中平の各所有に属することを確認する。

二  本訴被告(反訴原告、以下単に被告という)東京トヨペツト株式会社は、

1  原告近野に対し、

物件目録一の(一)記載の土地についてなした目録一の(三)(四)(五)の各登記、物件目録二の(一)記載の建物についてなした目録二の(三)(四)(五)の各登記、物件目録二の(二)記載の建物についてなした目録三の(三)(四)(五)の各登記の各抹消登記手続を承諾せよ。

2  原告中平に対し、

物件目録一の(二)記載の土地につきなした目録二の(三)(四)(五)の各登記、物件目録二の(三)記載の建物についてなした目録五の(四)(五)(六)の各登記の各抹消登記手続をせよ。

三  被告は訴外野崎自動車株式会社に対し、前項記載の各物件についてなした前項記載の各登記の各抹消登記手続をせよ。

四  本訴の訴訟費用は被告の負担とする。

との判決(但し二項と三項とは選択的に)を求め、反訴について「被告の反訴請求を棄却する。反訴の訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告は、本訴について「原告両名の本訴請求を棄却する。本訴の訴訟費用は原告両名の負担とする。」との判決を求め、反訴について「原告両名は各自原告に対し金四〇万円の支払をせよ。反訴の訴訟費用は原告両名の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求めた。

第二主張

(本訴の請求原因)

一  別紙物件目録一の(一)記載の土地(以下単に(一)土地という)及び同二の(一)(二)記載の建物(以下単に(一)(二)建物という)は原告近野光三の、同一の(二)記載の土地(以下単に(二)土地という)及び同二の(三)記載の建物(以下単に(三)建物という)は原告中平弘次の各所有である。

二  ところが、原告近野所有の(一)土地につき、訴外岩崎勝、同野崎自動車株式会社のため目録一の(一)(二)の所有権移転登記が、原告中平所有の(二)土地につき右訴外人両名のため目録二の(一)(二)の所有権移転登記が、原告近野所有の(一)(二)建物につき訴外岩崎勝のため目録三の(一)の所有権保存登記と右訴外会社のため目録三の(二)の所有権移転登記とが、原告近野所有の(二)建物につき、訴外南海商事株式会社のため目録四の(一)の所有権保存登記と訴外野崎自動車株式会社のため目録三の二の所有権移転登記とが、原告中平所有の(三)建物につき、訴外南海自動車株式会社のため目録五の(一)の所有権保存登記と訴外野崎自動車株式会社のため目録五の(二)の所有権移転登記とがなされていた。

三  そこで原告両名は、右の訴外人三名を被告として左記請求の趣旨のとおりの訴(東京地方裁判所昭和四〇年(ワ)第一、四三六号土地および建物保存登記ならびに所有権移転登記抵当権設定登記抹消等請求事件)を提起して、昭和四一年七月二日に後記のとおりの判決を得た。

(請求の趣旨)

1  原告近野に対し、

(一) 被告岩崎勝は物件目録一の(一)土地についてなした目録一の登記および物件目録二の(一)の建物についてなした目録三の(一)の登記の各抹消登記手続をせよ。

(二) 被告野崎自動車株式会社は、(イ)原告近野が物件目録二の(一)の建物および同物件目録の(二)の建物に対して所有権を有することを確認し、(ロ)物件目録一の(一)の土地についてなした目録一の二の登記、物件目録二の(一)の建物についてなした目録三の(二)の登記および物件目録二の(二)の建物についてなした目録四の(二)の登記の各抹消登記手続をせよ。

(三) 被告南海商事株式会社は、物件目録二の(二)の建物についてなした目録四の(一)の登記の抹消手続をせよ。

2  原告中平に対し、

(一) 被告岩崎勝は、物件目録一の(二)の土地についてなした目録二の(一)の登記の抹消手続をせよ。

(二) 被告野崎自動車株式会社は、(イ)物件目録二の(三)の建物につき原告中平が所有権を有することを確認し、(ロ)物件目録一の(二)の土地についてなした目録二の(三)の建物についてなした目録五の(二)の登記の各抹消登記手続をせよ。

(三) 被告南海商事株式会社は、物件目録三の(三)の建物についてなした目録五の(一)の登記の抹消登記手続をせよ。

3  被告野崎自動車株式会社は、原告両名に対し金二七五万円およびこれに対する昭和三九年九月一五日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告等の負担とする。

(判決主文の要旨)

1(一)  請求の趣旨1の(一)を全部認容

(二)  同1の(二)のうち、(イ)の物件目録二の(二)記載の建物についての所有権確認を求める部分と(ロ)の全部を認容

(三)  同1の(三)を認容

2  同2は(一)ないし(三)を通じて全部認容

3  同3も認容

4  訴訟費用は被告ら三名の平等負担とする。

四 なお原告両名は、前記事件に併合して、訴外豊栄産業株式会社を被告とする別の請求をしていたところ、昭和四三年一月二〇日に左のとおりの判決を得、該判決は同年二月七日に確定した。

(判決主文)

1  被告豊栄産業株式会社は、原告近野に対し別紙物件目録二の(二)の建物についてなした別紙目録四の(一)の所有権移転の、原告中平に対し別紙物件目録二の(三)の建物につきなした別紙目録五の(一)の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

2  訴訟費用中原告両名と被告東京トヨペツト株式会社との間に生じたものは、原告両名の負担とし、原告両名と被告豊栄産業株式会社との間に生じたものは、被告豊栄産業株式会社の負担とする。

五 他方、訴外野崎自動車株式会社は、本件の被告のため、(一)土地につき別紙目録一の(三)(四)(五)の各根抵当権設定登記、(一)建物について別紙目録二の(三)(四)(五)の各根抵当権設定登記および(二)建物について別紙目録三の(三)(四)(五)の各根抵当権設定登記、(二)土地につき別紙目録二の(三)(四)(五)の各根抵当権設定登記および(三)建物につき別紙目録五の(四)(五)(六)の各根抵当権設定登記をそれぞれ経由している。

六 しかしながら、原告両名は前記のとおりの判決を得ている。

しかるときは、

1  (一)土地は原告近野の所有に属し、かつ訴外野崎自動車株式会社が(一)土地についてなした目録一の(二)登記を抹消して(一)土地の所有者ではなくなつたのであるから、被告に対してなした目録一の(三)(四)(五)の各登記は根拠がなく、無効である。

2  (二)土地は原告中平の所有に属し、かつ訴外野崎自動車株式会社が(二)土地についてなした目録二の(二)の登記を抹消して(二)土地の所有者ではなくなつたのであるから、被告に対してなした目録二の(三)(四)(五)の各登記は根拠がなく、無効である。

3  (一)(二)建物が原告近野の所有に属し、かつ(一)建物についてなした目録三の(一)(二)の登記、(二)建物についてなした目録四の(一)(二)(三)の各登記が抹消されたのであるから、被告の(一)建物についてなした目録の(三)(四)(五)の各登記および(二)建物についてなした目録の(三)(四)(五)の各登記は根拠がなく無効である。

4  (三)建物は原告中平の所有に属し、かつ訴外野崎自動車株式会社が(三)建物についてなした目録五の(一)(二)(三)の各登記が抹消されたのであるから、被告の(三)建物についてなした目録五の(四)(五)(六)の各登記は根拠がなく無効である。

七 前項1ないし4により、原告近野が(一)土地および(一)(二)建物を所有し、原告中平が(二)土地および(二)建物を所有していることは明らかである。よつてこの旨の確認を求める。

八 以上のとおり前記確定判決により被告の各根抵当権設定登記は無効であるので、原告両名はこれら登記の抹消義務者野崎自動車株式会社を被告として東京地方裁判所昭和四四年(ワ)第一五号事件を提起したところ、同年一〇月二一日に左記の判決言渡があり、該判決は同年一一月七日に確定した。

(判決主文)

1  被告は原告近野に対し別紙物件目録(一)ないし(二)記載の不動産になした別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告は原告中平に対し別紙物件目録(四)及び(五)記載の不動産になした別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

九 右確定判決により、訴外野崎自動車株式会社は、原告両名に対して右根抵当権設定登記を抹消する義務を有しているのに、被告に対してこれらの抹消請求訴訟を提起しない。よつて原告両名は(一)(二)の土地及び(一)(二)(三)の建物についての所有権を保全するため、右訴外会社に代位して被告に対しこれら根抵当権設定登記の各抹消を求める次第である。

一〇 また、右の各根抵当権設定登記の根抵当権権利者は被告であり、これらの抹消につき登記簿上利害の関係を有する第三者に該当する。よつて原告両名は被告に対し、右抹消についての承諾を求める。

(本訴の請求原因に対する被告の答弁と主張)

一  請求原因事実中、被告のためになされている各根抵当権の設定およびその旨の各登記が無効であるとの点は争うが、その余の事実はすべて認める。

二  原告両名は、東京地方裁判所昭和四〇年(ワ)第一、四三六号土地および建物保存登記ならびに所有権移転登記根抵当権設定登記抹消等請求事件において、被告に対し前記根抵当権設定登記の抹消登記手続を請求したが、右第一審で請求棄却の判決を受け、控訴審(東京高等裁判所昭和四三年(ネ)第一六四号事件)および上告審(同年(オ)第一二二三号事件)でいずれも上訴を棄却され、再審の申立も昭和四四年五月三〇日に却下された。

従つて、原告両名の被告に対する前記根抵当権設定登記の抹消登記請求権の不存在が確定されたのに、原告両名は右事件における事実審の最終口頭弁論期日後に生じた新たな事実に基かずに、再度被告に対し同一請求をしてきたものである。よつて、原告両名の本訴請求は前事件の判決の既判力に抵触するので、当然に棄却さるべきものである。

(反訴の請求原因)

一  原告両名の本訴請求が上告審まで行つて排斥された前事件と同一のものであることは、右の答弁欄で述べたとおりである。従つて、右請求は全く無益であるばかりでなく不当な訴訟である。

二  ところで被告は、原告両名の本訴請求に応訴するため、弁護士宮内重治、同田坂昭頼、同萬羽了、同今中幸男を訴訟代理人に選任して、着手金として二〇万円を支払い、勝訴判決を受けたときは更に二〇万円を謝金として支払うことを約した。これらの出費は、原告両名の不当訴訟によつて被告が被つた損害である。

三  よつて原告両名は被告に対し、損害賠償として四〇万円の各自支払を求める。

(反訴の請求原因に対する原告の答弁)

全部争う

第三証拠〈省略〉

理由

(本訴について)

(一)土地および(一)(二)建物が原告近野の、(二)土地および(三)建物が原告中平の各所有に属することは当事者間に争いがないが、被告のためになされている本件各根抵当権設定登記について、当の被告に対しその抹消登記をすることの承諾を求めることは法律上無意味、且不能な請求であり(被告は不動産登記法一四六条所定の第三者ではなくて、抹消さるべき登記の権利者である。又、右の承諾請求の趣旨を、単純な抹消登記手続の請求に釈明させたり、或いはそのように善解することは、後に反訴について判示するとおり、この趣旨の請求が前訴として既に棄却され、確定している関係上、むしろ本件の実体にそぐわないことである。)又訴外野崎自動車株式会社の被告に対する右各登記の抹消請求権の根拠について何等の主張がないので代位による抹消登記手続の請求も理由がなく、更に所有権確認を求める部分も、確認の利益が存在することについての主張がないので、これ亦理由がない。

よつて原告両名の請求はいずれも棄却を免れない。

(反訴について)

いずれも成立に争いのない乙第一号証ないし乙第四号証によれば、被告が指摘する「前訴」(当庁昭和四〇年(ワ)第一、四三六号事件とその控訴、上告事件)は、請求の趣旨の表現において本訴のそれと多少異なり、前記各根抵当権設定登記の抹消登記手続のみを求めるものではあるが、本訴において後に追加された所有権確認を求める部分を除いては、実質的にはこれと本訴とが同一内容のものであること、右の「前訴」は第一審で請求棄却となり、控訴審上告審を通じていずれも上訴が棄却され、再審の申立も却下されたこと、以上の事実が認められ、反証はない。そして、本件の本訴が前訴における事実審の最終口頭弁論期日後に生じた事実を理由とするものでないことは、右の各書証と本訴における原告両名の主張を対比して明かなところである。

してみれば、本訴は実質的に前訴のむし返しであつて益のないものであるばかりでなく(所有権確認を求める部分がこの点を糊塗するために形だけ追加されたものであることは、本件の経過に徴して容易に推認し得るところである)、被告に対する不当な訴訟であるといつて妨げず、原告両名は、これによつて被告が蒙つた損害を連帯して賠償すべき義務を負うものといわなければならない。

しかるところ、証人河合重郎の証言とこれによつて真正な成立を認め得る乙第五号証とによれば、被告は本訴に応訴するため本件の訴訟代理人たる四名の弁護士に訴訟委任をなし、昭和四五年の二、三月中に着手金として二〇万円を支払つたほか、勝訴の際には更に二〇万円の成功謝金の支払を約していることが認められ、反証はない。これらの各金額が日本弁護士連合会等で定める弁護士報酬等の基準に適合するものであることは当裁判所に明かなところであるが、本件が比較的早期に結審となつたことや本件審理の実情からすれば、着手金と成功謝金の合計額、換言すれば原告両名が連帯負担すべき賠償額は三〇万円とするのが相当である。

従つて、被告の反訴請求は、原告両名に対し三〇万円の各自支払を求める限度で理由があるが、これをこえる部分は失当である。

(結論)

よつて、原告両名の本訴請求をいずれも棄却し、被告反訴請求中右理由のある部分を正当として認容して他を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林啓二)

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